教授あいさつ
より良い手術を目指そう!
教授 奥山 宏臣
Hiroomi Okuyama
沿革
大阪大学小児外科教室は、1982年4月に岡田正を初代教授として発足しました。ただ第一外科の小児外科グループとしては、1950年代より植田隆と岡本英三らによってその活動が開始されていました。
植田は1953年にヒルシュスプルング病、1960年に食道閉鎖症の手術を本邦で初めて実施した我が国小児外科のパイオニアの一人であり、太平洋小児外科学会(PAPS)の創設メンバーでもあります。
岡本は植田とともに小児外科グループを立ち上げ、世界で初めてヒルシュスプルング病の病因論である”cranio-caudal migration thesis”を1967年のJournal of Pediatric Surgeryに発表しました。1973年には兵庫医科大学第一外科初代教授に就任しました。
こうした小児外科グループの活躍が基盤となり、1982年大阪大学に小児外科学講座が開設されました。初代教授の岡田正は1970年代初めより中心静脈栄養をいち早く日本に導入し、外科代謝栄養という新たな領域を確立しました。また、小児外科特有の鎖肛、胆道疾患、新生児外科といった領域にも取り組みました。2002年には2代目教授に福澤正洋が就任し、これまでの診療・研究領域に、小児がんや臓器移植の分野が加わり、小児外科の全領域をカバーする診療・研究体制が整いました。
福澤は、日本小児がん研究グループ(JCCG)創設にも尽力しました。2014年に3代目教授として奥山宏臣が就任して以降は、内視鏡下手術を中心とした低侵襲手術を多くの疾患に導入しました。さらに、阪大病院に胎児診断治療センターや腸管不全治療センターを開設して、多職種による先進的な医療を実践してきました。
このように当教室は、胎児から成人の患者さんを対象とした多彩な疾患・手術に取り組み、何より患者さんの元気な笑顔を励みに、日々臨床・研究・教育に取り組んでいます。
2014年7月から、当教室の運営に携わらせていただき、2025年3月に定年退職致しました。現在は大阪大学名誉教授として、引き続き小児外科の診療・研究・教育に関わっております。
私が教授として在職したこの10年余りは、”より良い手術を目指そう!”を教室の第一の目標としてきました。現在行われている手術を、私が大学を卒業した頃と比べれば、多くの疾患に対して全く新しいタイプの手術が行われています。2000年代に始まった内視鏡外科手術は鼠径ヘルニアや虫垂炎といった日常よく見る疾患だけでなく、鎖肛、ヒルシュスプルング病、胆道拡張症、食道閉鎖、横隔膜ヘルニアといった主要疾患にも適応が広まっています。また、肝臓移植は胆道閉鎖症に対する治療の選択肢として確立されています。さらに、最近では子宮開放による胎児手術やロボット手術も小児領域に導入されています。
このように先進的な“より良い手術“を目指すには、個々人の手術技術の向上に加えて、新しい機材・機器の積極的な導入が不可欠です。そして大前提として、何より安全性を優先して、患者さんの不利益にならないような配慮が必要です。世界中のネットワークを駆使して、最新情報情報を常にアップデートすることが必要です。一方で、その新しい手術が”より良い手術”であることを客観的に証明するには、臨床研究や基礎研究によるエビデンスの創出が求められます。
しかし先天的な臓器障害に対する機能的な疾患が多い小児外科で、手術の有用性を証明するためには、患者さんの成長に合わせたきめ細かい評価が必要です。疾患によっては、10年、20年と長期にわたるフォローが必要です。最近ではいくつかの疾患で登録制度が確立され、長期予後のデータが前向きに蓄積されつつあります。近い将来多くの優れたエビデンスの創出が期待できます。
このように、”より良い手術”を目指すには、こうした息の長い研究を次世代へと繋げていく必要があります。これがまさに未来へと繋がるダイナミックな”小児外科学”の核心です。これからも教室をあげて、より良い手術を目指していきたいと思います。