新生児外科
当院の新生児外科
【当院の新生児外科】
- 1953年に植田医師によりヒルシュスプルング病根治術に本邦で初めて成功して以来、当科の新生児外科は発展を続けています。多診療科連携で、幅広い新生児外科疾患や重症例に対応しています。
- 高度で低侵襲な手術を提供しています。先天性横隔膜ヘルニアや食道閉鎖症などに対して低侵襲手術を積極的に導入しています。また、産婦人科と連携して、EXIT procedure※にも対応しています。(※帝王切開時に、臍帯による胎児への血流を維持した状態で気道確保などの外科的処置を行う処置)
- 胎児診断治療センターと連携し、胎児診断から新生児期以降まできめ細かいサポートを提供しております。先進的な胎児治療も実施しております。移行期医療にも力を入れ、QOL向上を目指した多職種連携長期フォローアップ体制を整えています。
新生児外科疾患
【新生児外科疾患】
新生児(生まれて1ヶ月以内の赤ちゃん)の外科で取り扱う病気には下記のように様々なものがあります。
緊急性が高く、場合により放置すれば生命に関わる病気としては、呼吸困難症状で見つかるもの(横隔膜ヘルニアなど)、嘔吐・腹部膨満などの消化器症状で見つかるもの(腸閉鎖症など)、腹膜炎症状で見つかるもの(壊死性腸炎など)、腫瘍・腫瘤・嚢胞性の病気(腎腫瘍など)、外観から明らかな形態異常(腹壁破裂など)等があります。
新生児の日常疾患の中にも、鼠径ヘルニアなどのように、小児外科医による診断や治療を行うほうが良いと思われる病気もあります。
これらのような赤ちゃんの異変に気づかれた場合には、当院にご相談ください。
主な対象疾患
当科では以下のような新生児外科疾患を対象にしています。
【主な疾患】
- 頭頸部
- 先天性上気道閉塞症候群、小顎症、先天性気管狭窄症、気管軟化症、気管無形成、声門下腔狭窄症、梨状窩瘻、副耳、耳前瘻孔など
- 胸部
- 先天性横隔膜ヘルニア、胸水、嚢胞性肺疾患(気管支閉鎖症・CPAM・肺分画症等)、横隔膜弛緩症など
- 消化管
- 食道閉鎖症、食道狭窄症、食道裂孔ヘルニア、胃食道逆流症、胃破裂/胃穿孔、中腸軸捻転、十二指腸閉鎖症、小腸捻転、小腸閉鎖症・結腸閉鎖症、直腸肛門奇形(鎖肛)、ヒルシュスプルング病、ヒルシュスプルング病類縁疾患、消化管重複症、限局性腸穿孔、胎便性腹膜炎、胎便関連性腸閉塞、壊死性腸炎、臍腸管遺残症、肛門周囲膿瘍など
- 肝胆膵
- 胆道閉鎖症、先天性胆道拡張症/膵・胆管合流異常、門脈閉塞など
- 腹壁
- 臍帯ヘルニア、腹壁破裂、総排泄腔外反、臍ヘルニア、鼠径ヘルニアなど
- 泌尿生殖器
- 総排泄腔遺残、卵巣嚢腫、停留精巣、陰唇癒合、後部尿道弁など
- 腫瘍・その他
- 縦隔腫瘍、肝腫瘍(肝芽腫等)、腎腫瘍(腎芽腫等)、神経芽腫、胚細胞腫瘍(奇形腫等)、血管奇形、リンパ管奇形、結合体など
先天性横隔膜ヘルニア
先天性食道閉鎖症
食道閉鎖症とは
生まれつき、上下の食道の連続性が途絶えて(閉鎖して)いるため、哺乳ができない状態であり、早期に治療が必要な疾患です。気管と下部食道が繋がっている(気管食道瘻)ことが多く、消化液が気管を介して肺へ流れ込むと、誤嚥性肺炎を生じ、呼吸困難となります。そのため速やかな外科治療が求められます。
食道閉鎖症は複数の病型があり、A型からE型に分かれます。その中で最も頻度の高いものはC型で、上部食道が盲端となり、下部食道が気管に交通している(気管食道瘻)タイプです。
●参考:日本小児外科学会
治療について
気管食道瘻を閉じて、上下の食道をつなぐ(吻合する)ことが手術の目的です。上下の食道の距離に応じて、治療方針が異なってくるため、患者さんに応じて最適な治療方法を選択しています。食道どうしの距離が長い例では、そのままつなぐことが難しいため、まずは胃瘻造設術を行い、栄養ができる体制を整えます。必要に応じて食道を延長する手術を行なってから、食道をつなぐ手術を行います。また、合併する他の病気のために、複数回に分けた手術を行う場合もあります。
近年では、全身状態が良く、食道の距離が短い患者さんでは、胸腔鏡下手術と呼ばれる低侵襲手術を積極的に行っています。
術後について
術後に食道が狭くなる(食道狭窄)ことがあり、消化管内視鏡を用いたバルーン拡張を行っています。
十二指腸閉鎖症・十二指腸狭窄症
十二指腸閉鎖症・十二指腸狭窄症とは
生まれつき、十二指腸が途中で途絶えたり(閉鎖)非常に狭くなったり(狭窄)しているため、食べたものや胃液が十二指腸から腸管へ流れず、腹部膨満や嘔吐をきたす状態です。近年では胎児診断される症例が増加しています。生後、経口摂取を可能にするために、通過障害を起こしている部分を取り除き、正常な十二指腸どうしをつなぐ(吻合)手術を行います。
治療について
まず、鼻から胃まで通したチューブを用いて膨満した胃を吸引し、誤嚥を防ぎます。点滴で脱水や電解質異常を補正し、全身状態が安定したところで、十二指腸をつなぐための根治手術(ダイヤモンド吻合と呼ばれる方法で行います)を早期に行います。全身状態の良い患者さんでは、腹腔鏡下手術と呼ばれる低侵襲手術を行なっています。
小腸閉鎖症
小腸閉鎖症とは
生まれつき、小腸が途中で途絶えているため、消化管の内容物(食物、消化液、便など)が通過できず、腹部膨満・嘔吐をきたす状態です。嘔吐し経口摂取ができないうえ、放置すると消化管が破れ腹膜炎になる恐れがあります。消化管造影検査などを行い、診断します。近年では胎児診断される症例が増加しています。
治療について
消化管内容物がたまって消化管穿孔をきたす前の新生児期早期に手術が必要です。閉じたり狭くなったりしている箇所を切除し、正常な腸管同士をつなぎ合わせます(吻合と呼びます)。低出生体重児など、全身状態が安定していない場合には人工肛門造設を行い、成長を待ってから腸をつなぐこと(吻合)があります。
閉鎖している部分が多発している場合や、小腸が短い場合などは、術後長期間にわたって、点滴による栄養(中心静脈栄養)が必要になることがあります。
新生児の消化管穿孔・壊死性腸炎
新生児の消化管穿孔・壊死性腸炎とは
壊死性腸炎とは、未熟な腸管への血液の流れが障害されたところに、細菌感染などの要因が加わることで、腸管が壊死したり破れたり(穿孔)する状態です。腸内容液が腹腔内に広がって、腹膜炎と呼ばれる重篤な炎症を起こすことがあります。
新生児消化管穿孔・壊死性腸炎の原因は完全にはわかっていませんが、多くの患者さんでは非常に未熟な状態で生まれたり、心臓の疾患をお持ちであったりすることから、腸管の未熟性や腸管への血流不良の状態に、感染などの要因が加わって、急激な炎症反応(免疫反応)が引き起こされると考えられています。
治療について
軽症の場合は、絶食で腸管を安静にし、点滴、抗菌薬投与による内科的治療を行います。重症例や、消化管穿孔をきたしている場合は、命にかかわる重篤な状態であり、緊急手術を行います。病変部分の切除および正常な腸管同士をつなぐ手術(吻合)を行いますが、病変の状態によっては、人工肛門造設を行うことがあります。また、壊死した腸管が多量の場合には、初回手術時に一旦腸を切除せず、時間をおいて2回目の手術を行うことで、腸管を可能な限り温存する方法をとります。
腸回転異常症・中腸軸捻転
腸回転異常症とは
赤ちゃんの小腸は2m近くの長さがありますが、この長い腸管をお腹にうまくおさめるために、胎児期に腸管の回転と固定が起こり、小腸は左上から右下に流れるようにお腹の中におさまります。この胎児期の回転や固定が何らかの原因でうまくいかない状態が腸回転異常とよばれる状態です。
中腸軸捻転とは
腸回転異常が原因で腸がいびつな形で固定されると、小腸の大部分の血流を担う上腸間膜動脈を中心として、腸管が大きく捻れてしまうこと(軸捻転)が起こりやすい形となることがあり、実際に捻れた状態を中腸軸捻転と呼びます。軸捻転は突然に発症し、放置すると腸管の大部分が血流不良におちいり、壊死してしまいます。
症状は急激に進むことが多く、新生児期に急に飲めなくなったり、お腹が張って繰り返し嘔吐したり、黄色い胆汁の混じった嘔吐(胆汁性嘔吐)を生じたりした際には、上記に注意が必要です。
治療について
腸回転異常症が疑われる場合は、腹部超音波検査や消化管造影検査等を行い診断します。中腸軸捻転を起こしている場合には、多量の腸管の血流が悪化し、壊死する危険があるため、緊急手術が必要です。速やかに専門医療施設での診療を受けることが大切です。
手術では腸管の捻転を解除し、壊死した腸管を切除します。再度捻転を起こすことがないよう、Ladd靭帯と呼ばれる原因病変を切離し、腸管の走行を捻転しにくい形に整えます。壊死した腸管が多量の場合には、初回手術時に一旦腸を切除せず、時間をおいて2回目の手術を行うことで、腸管を可能な限り温存する方法をとります。多量の腸管を切除した場合、点滴での栄養補充を要する「短腸症候群」をきたす場合があります。
新生児卵巣嚢腫(のうしゅ)
新生児卵巣嚢腫とは
胎児期に母体のホルモンの影響で、卵巣に液体が貯まり大きくなる(卵巣嚢腫)状態です。腹腔内の袋(のう胞)として診断されることが多いです。多くの場合、出生後にホルモン濃度が低下すると、自然に小さくなることが期待できます。しかし、4cm以上の大きさになると、嚢腫が卵巣ごと捻れてしまい、卵巣が壊死におちいるリスクがあると言われています。そのため、大きな卵巣嚢腫の場合は、手術で液体を排出することがあります。まれに胎児期に既に捻れている場合があります。
治療について
サイズが小さい場合には、捻れるリスクが低いため、自然に縮小・消退するのを待ちます。サイズが大きい場合には、卵巣ごと捻れてしまう場合があるため、手術で嚢腫の摘出を行い、卵巣の温存を図ります。
腹壁形成異常(臍帯ヘルニア、腹壁破裂)
臍帯ヘルニアとは
胎児期に、赤ちゃんの腹壁(お腹の壁)の形成に異常があり、腹壁に穴(欠損孔)ができてしまい、その結果、臍の緒(臍帯と呼びます)の中に腹部臓器が脱出してしまう状態です。臍帯に脱出しやすい臓器として、胃、腸管、肝臓があり、これらが体外に出たままの状態で生まれてきます。
臍帯ヘルニアは、腹壁の穴の場所によって分類されています。染色体異常や他の疾患を伴うことがあります。多くの症例が胎児診断されます。病気の状態や他の疾患の存在によって、治療方法や経過が大きく異なるため、患者さんに合わせて十分な説明を受けられることと、多診療科がそろった専門施設での綿密な治療計画が大切です。
腹壁破裂とは
臍帯ヘルニアと同じように、胎児期の腹壁の形成に異常があり、腹壁に穴(欠損孔)ができてしまう状態です。臍帯ヘルニアと異なり、臍の横に欠損部があり、直接腸などの腹部臓器が体外に脱出します。腹壁破裂も胎児診断されることが多いです。
治療について
出生後直ちに脱出臓器を保護します。一度に腹腔内に戻せる場合には手術で用手還納(臓器を押し戻すこと)を行い、欠損部を閉鎖します(一期的腹壁閉鎖術)。しかし、胎児期より腹部臓器が脱出しているため、赤ちゃんのお腹の容積が小さいことがあり、また脱出臓器が多い場合には、一期的に戻すことが難しくなります。一期的還納が困難な場合には、サイロと呼ばれる筒を作って臓器を保護し、徐々に腹腔内に臓器を戻す方法をとります(多期的腹壁閉鎖術)。巨大臍帯ヘルニアの場合には、薬剤を塗布しながら臍の緒を上皮化させて対応することもあります。
●参考: 日本小児外科学会